トップメッセージ

南川理事長の写真

2050年を見据えた挑戦とあるべき姿の模索

一般財団法人日本環境衛生センター
理事長 南川 秀樹

謹賀新年、令和時代の幕開けにあたり、皆様に、世界と日本、仕事に関する私の想いを述べさせていただきます。

 これから2030年後の世界を考えるときに、まず頭に思い浮かぶのは不安です。かつて米英がリードした言論の自由と人と資本の自由な移動が作り出す資本主義、ロシアや中国が国家原理としている社会主義市場経済は、共に大きな行き詰まりを見せています。近い将来、そのどちらでもない新たな第三の社会体制ができるといわれています。

 また、日本政府が提唱するSociety5.0は、新たな社会として、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会的課題の解決を両立するものという触れ込みになっています。私にはよく理解できませんが、頻繁に中国を訪れ見聞きすることから、今の中国都市部のようにアプリで全ての消費が処理され、またロボットが日常生活まで入り込んだ生活が広がることのように想像されます。社会全体に通用する、多くの人々が(よすが)とできる原理や規範を感じることができない社会がやってくるのでしょうか

 環境問題を考えるときに、その改善への努力は純粋に環境に特化したものではなく、経済や社会の様々な側面に与える影響を考慮し、同時に、環境・経済・社会が統合的に向上するものとなることが必要となっています。これは、あらゆる施策に共通するものであり、全てが環境的側面から持続可能なものでなくてはなりません。国が提唱するもう一つの近未来社会である「環境・生命文明社会」は、こうした複雑な社会のあり方に一石を投ずるものであり、大いに注目すると共にその実現に努力する価値のあるものと理解しています。

 私ども日本環境衛生センターは、環境と衛生の向上を通じて、より暮らしやすい社会の実現に努めることを基本理念としています。こうした課題を巡る状況は大いに変化しており、私どもは今年もそれらにしっかりと取り組んでまいります。

 世界的な課題である気候変動・地球温暖化や廃プラスチックによる海洋汚染は、当センターの仕事にも大いに関わっています。気候変動は、気温の上昇、大雨の規模と頻度の増大、生物の分布域の変化などその影響が世界各地で現れており、日本国内でも顕著になっています。また、今後長期にわたり拡大すると予測されます。近年、大雨による洪水から災害ごみが大量に発生し、昨年の台風19号のようにその処理に2年を要するという事態も稀ではなくなりました。日本環境衛生センターは、環境省の災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)の一員として、仮置き場の設置・運営、総合的な管理に留まらず、避難所でのし尿処理や衛生管理を始めとする避難環境の改善の支援に努めています。もちろん、事前の災害廃棄物処理計画の策定のお手伝いも行ってまいります。また、災害廃棄物の大量発生は、様々な衛生害虫の発生の引き金ともなります。気温の上昇に伴う衛生害虫、またそれを運搬する動物の生息域の拡大ともあいまって、感染症の拡大の危惧も見逃すことはできません。気候変動適応策の一環として重要な課題と捉え、取組みを始めています。

 廃プラスチックがもたらす海洋汚染への取組みは国際的に待ったなしの状況です。2050年には、海の廃プラが重量で魚を上回るという予測があります。生態系を含めた海洋環境への影響を最小限に留めなくてはなりません。代替素材の開発などのイノベーション、リサイクルの一層の促進に加え、地味ではあっても、ごみが河川から海へ流出するメカニズムの探求、陸域から海域に至る散乱ごみの回収、「プラスチック・スマート」キャンペーンの展開による幅広い関係者の連携構築をしっかりと進めていくことが必要です。

 また、この問題が世界的に顕在化すると同時に、世界最大のプラスチック廃棄物の発生国といわれる中国が、環境への危害が大きい固体廃棄物の輸入を禁止しました。わが国のみならず、アメリカや欧州も最後の廃プラの捌け口として中国への輸出策を取っており、その停止が大きな政策転換を迫っています。どのように廃プラの輸出から国内資源循環に転換するのか、難しい問題です。バーゼル条約の運用に長く関わっているセンターとして知恵の出しどころだと考えています。

 中国とは、廃棄物の課題だけではなく、環境問題全般を通じ、協力関係を築いています。大気汚染を中心にその改善に努めてきましたが、廃棄物についても中国政府や民間企業との交流を深めています。私は昨秋、中国政府から「友誼賞」を授与されました。これは多くの先人の努力が認められ、たまたま現在、中国政府の委員を務める私が受賞したということに過ぎませんが、これまで以上に日本環境衛生センターとして日中の環境施策や技術の交流にしっかりと取り組んでまいります。新潟のアジア大気汚染研究センターの一層の活用も進めてまいります。中国とは、東アジアの隣国として長年にわたる交流の歴史があります。その歴史を大切にしてまいります。

 国内の廃棄物への対応についても大きな変化が起きようとしています。AIに代表される様々な新しい情報システムの本格的な活用が更に進み、廃棄物処理の世界でも走り出しています。産業廃棄物に加え一般廃棄物でも収集の有料化が進み、家庭を含む排出者からの料金徴収に始まり、収集、運搬、分別の過程、焼却や破砕、そして埋立あるいは輸出の全過程がIoTによって制御される時代が遠からずやってきます。この動きは、全ての分野で急速に広がっており、農業、工業生産、流通、交通、観光から、医療といった個人の生活にも入り込みつつあります。あらゆる主体の日常活動から消費までの全てが取り込まれます。

 この徹底が、人権や自由の確保という観点から望ましいものかどうかはともかくとして、他方では、人間が生身の直感と深い思考に基づく知識によって対応すべき分野も増えていくものと考えます。それは、顧客の立場に立った現場の技術力であり、関係者の多くに高い満足感をもたらすような気持ちの洞察です。それらを養いつつ、一歩一歩、取組みの次元を改善していくことが求められます。このことは、SDGsの考え方にも通じ、「地域循環共生圏」の実現を目指す方々とも共有できるものです。日本環境衛生センターとして、より一層市町村との結びつきを大切にしてまいります。各人が、自分で考え、現場に赴き、仮説を立てる。それを持ち寄って、チームとしての議論と検証と挑戦を繰り返す。常にセンターとして、戦略的に考え行動していきたいものです。

 見通しの利かない経済と社会の流れのなかで、人口の減少、財政の悪化、消費や投資の大きな変化など、各主体が直面する課題がかつてないほど遥かに多面的、かつ複雑になっています。俯瞰的に物事を捉える鳥の目、現場をしっかり見つめる虫の目、流れを捉える魚の目を駆使しなければ展望は開けません。

 昨秋私と同時に中国政府から「友誼賞」を授与された方に、光触媒の第一人者であり、ノーベル賞候補との呼び声が高い藤嶋昭先生がいらっしゃいます。藤嶋さんの科学技術と人の生き様についての関心の高さと洞察力には敬服するばかりです。ファラデーの『ロウソクの科学』についてのご見解と想いを伺い、「自らの力で光り輝くロウソクはどんなダイヤよりも美しい」という言葉も伺いました。

 浅学菲才で自らの力では光ることのできない私ですが、日本環境衛生センターのリーダーとして職員の知恵と力を集め、また、多くの関係者と協力し合って、2020年が光輝く一年になるよう、「常に一歩前へ」を合言葉に走り続けます。

 皆様には、今年もよろしくご指導、ご鞭撻のほどお願い申し上げます。