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人口80億人の世界、日本経済力の低下、我々の目指すもの

一般財団法人日本環境衛生センター
理事長 南川 秀樹

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。 さて、私は、「中国の環境と開発に関する国際協力委員会」の委員を務めており、中国に古くからある「陰陽五行思想」を時折調べています。今年の干支である「癸卯」は、これまでの努力が実を結び、勢い良く成長し、飛躍する年になるとのことです。皆様はもとより、国、世界においてもそのような年になるよう、心より願っております。もちろん、日本環境衛生センター(JESC)も、そのような年にできるよう、精進してまいります。

昨年は様々な出来事、それも必ずしも喜べないことが多くありました。先ずは、地球の人口が80億人を超えました。今年は、インドの人口が中国を上回ります。多くの国々で、経済が伸び悩む中での人口増は、環境への負荷の増大、食料の不足、疫病の多発など、様々な課題をこれまで以上に表面化させます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行は発生から3年が経過した現在も収束の気配を見せていません。カタールW杯の画面からマスクは消えていますが、発生のメカニズムも拡大の経緯も解明されないまま今日に至っていることは、これからもグローバリゼーションが進む中での大いなる不安要素です。

そうした中で、日本が果たすべき役割への期待は高まっています。しかし、残念ながら国際社会における地位は下がり続けています。よく引用されるスイスの国際経営開発研究所(IMD)の競争力では、日本は1990年に第1位であったものが、2022年には34位まで落ちています。それだけ国際社会に貢献する能力が低下しているのです。

また、気候変動、地球温暖化の被害は、確実に深刻化しています。中国、ヨーロッパ、西アフリカなどでの大旱魃、パキスタンや東アフリカでの大洪水など、枚挙に暇がありません。特に、パキスタンで国土の3分の1が水没した被害の深刻さは、目を覆うばかりです。そうした中で、昨年末に行われたCOP27にて、Loss & Damageへの基金設置が結論文書に明記されたことは、素晴らしい出来事でした。一方で、ロシアによるウクライナへの侵略は許しがたい暴挙です。いつ果てるとも分からない戦争が、どれだけ多くの殺人行為や国土の荒廃を招くのか、予想もつきません。

私ども、JESCでは、限られた範囲ではありますが、地球温暖化や感染症についての取り組みを始めています。また、ウクライナで発生している大量の破壊廃棄物処理については、復興に向けた一助を担いたいと考えており、現在、ウクライナの中央政府・地方政府等に向けたセミナーで、外部有識者として参加しています。

話は変わりますが、昨年JESCが取り組んだ事業の一つに、欧州委員会への「EU taxonomy」に関する申し入れがあります。Waste-to-Energyは、循環経済に役立ち、温暖化対策としても有意義であることを理解したうえで、具体的な事業の特定をするよう要請したものです。特に、温暖化対策に関しては、二酸化炭素とメタンの発生を如何に抑制するかについて、十分に考慮するべきだと考え、事業に取り組むこととなりました。環境NGOの中には、焼却に強く反対する方もいらっしゃいますが、JESCの試算では、日本での一般廃棄物の焼却は、メタンの発生を抑制すれば、温暖化対策として効果を上げるという結果が出ています。それに対して、現在焼却されている一般廃棄物を焼却せずに、環境対策として優れている福岡方式で埋立処理を行った場合は、現状から2.5倍の温室効果ガスが排出されるという結果がでています。このようなことも理解したうえで、焼却処理の在り方を考える必要があります。

廃棄物やリサイクルについては、その数値化等の基準が国や地域により異なり、多くの誤解を生んでいます。しっかりとした目安を作り、国際的な比較を正しくできるように整理することが、今後、多くの関係者から協力を得たうえで、適切な対策を進めるために不可欠です。

今年は、何が起きるのでしょうか。歴史的な視野から見れば、「グローバル資本主義の限界(世界規模で絶え間なく発生する感染症と、温暖化による地球環境の深刻な危機)を知るべきだ。」とする問題提起がなされています。「人新世の資本論」として流布されており、経済成長を優先する資本主義の在り方を、根本的に見直すべきだという考えです。私は、これまで長く環境問題にかかわってきた一員として、このような考えには賛成できません。先ず、元経済学徒として、脱資本主義という概念は信用できません。経済の安定的な発展なしに社会の安定はなく、不安定な社会では、環境保全のための取り組みが排除されてしまうと考えています。無駄遣いは排除しつつも、世界から常に革新的な知見を取り入れ、経済の安定に十分な配慮を行ったうえで、持続可能な社会を目指し、地球温暖化、循環経済、生物多様性への取り組みをしっかりと推進すべきです。

地球温暖化では、マクロ的な視点から見れば、既に合意されている2030年、2050年目標に向けて、バックキャストのアプローチで臨むのか、それとも、技術革新を期待しつつ、現実を踏まえたフォーキャストのアプローチで臨むのか、難しい選択があります。これについては、将来像をしっかりと描いたうえで、今できることを着実に進めるしかないのではないでしょうか。環境省による脱炭素先行地域の指定は、わかりやすい行方を示しています。JESCも全面的に協力し、個々の地方公共団体における取り組みを一緒に進める過程で、斬新で着実な方策を樹立できるよう、サポートしてまいります。

循環経済では、昨年施行されたプラスチック資源循環促進法をどれだけ効果的に運用するか、また、資源の有効活用という視点のみならず、地球温暖化対策にも貢献できるか、が重要です。多くの企業や地方公共団体の皆様と知恵を寄せ合って、手間と経費を合理的な範囲で抑えつつ取り組みを進めたいと考えております。生物多様性については、グローバリゼーションの結果であるヒアリ対策、地球温暖化に係る感染症を媒介する昆虫対策にも取り組みます。また、30 by 30という世界規模の保全に貢献できるものがあるか、その可能性を探ります。温泉についても、その保全と活用に協力してまいります。

JESCはつながりを大切にしています。環境保全への取り組みを強化する中で、国、地方公共団体、企業、住民団体の皆様との間につながりを作り、それを十分に活用することで対策の成果を上げていくことが我々の得意技です。研修事業は、廃棄物や生物の部門を中心に展開しており、毎年多くの皆様にご参加いただいています。昨年は、法律改正を受け石綿対策の研修を充実強化しました。更に、法制度や技術の課題をわかりやすくお伝えするため、開催方法と内容を再検討してまいります。また、全国環境衛生・廃棄物関係課長会の事務局を務めながら、連携強化に関する新たな試みにチャレンジしてまいります。

環境の悪化に関する課題は、多くの地域と国に共通した課題となっています。先進国と開発途上国では、内容と深刻さに大きな差異があります。常に世界全体の動向を視野に入れつつ、問題解決のために地元と協力して事業を行うこと、様々な国の皆様と研修を通じて交流することもJESCの大切な役目です。

私どもJESCは、技術、科学的知見、また、制度面での知識を自ら養いつつ、ハンズオンの精神を大切にしながら、国内外の課題へ果敢に取り組んでまいります。見るだけ、聞くだけ、人任せではなく、実地で体験する、実施に携わる、現場で実践する、自分も主体的に参加する、そんな姿勢を守り続けます。

皆様との出会いを大切にしつつ、時にはオンラインを活用しながら立ち入った対話をし、新しい世界を切り開くことができるよう、今年を第一歩にしたいと考えております。2023年という年が、持続可能な社会づくりを目指す皆様にとって、幸多いものになることをお祈りいたします。

2023年1月4日