避難所の衛生対策

 大規模な災害が発生すると、多くの市民が避難生活を余儀なくされます。集団生活やライフラインの断絶といった慣れない生活が継続すると、被災後の心的ストレスとあいまって体の抵抗力が低下すると言われています。そして、避難所の適切な衛生管理がなされないと、感染症や食中毒が発生しやすくなり、避難全員の健康や命にかかわることになりかねません。
 ここでは、主に保健所に勤務し、日頃から環衛業施設に対する監視・指導業務に従事している環境衛生監視員の視点で、避難所の衛生対策について紹介します。

避難所の衛生対策の第一歩

 災害の際に、避難者を受け入れる場所が「避難所」です。生命の危機を逃れた方が一時的に過ごす避難所で、引き続き、命や健康が守られなければなりません。こうした避難所の中で健康を維持するために大切なのは、衛生環境の確保です。

避難所開設時の衛生対策

 避難所を開設する当初、衛生面で重要なのは、土足禁止と清潔なトイレの維持です。

①土足の禁止

 外靴の靴底には、トイレや屋外で付着した汚物や吐物が残っているかもしれません。寝具が置かれた避難スペースまで土足で出入りすると、汚物や吐物が、多くの人が生活する場所へ運ばれてしまう可能性があるのです。例えば、ノロウイルスを含む汚物や吐物が乾燥して空気中に舞ったとすれば、口に入るウイルスが原因で集団感染が起こることが考えられます。
 避難所の受付で、名簿作成とともに外靴を入れるビニール袋(レジ袋)を避難者に渡す方法があります。この方法は、感染症の予防とともに、各自が外靴を袋に入れて管理することで、靴の紛失や盗難を防止できるメリットをもっています。避難所での土足禁止にあたり、日常から非常持ち出し袋にスポーツシューズなどの上履きを入れておくのがお勧めです。

②清潔なトイレの維持

 発災後すぐに、既設トイレの場所などを活用して、携帯トイレや簡易トイレを設置することが必要です。発災当初、トイレの数は50人に1個が目安とされています。
 設置と同時に大切なのは、清潔なトイレの維持です。トイレが汚れてしまうと、感染症発生のおそれがあるばかりではなく、トイレへ行かなくていいように水分摂取を控える人が出てきて、エコノミークラス症候群につながってしまいます。
 トイレを清潔に保つためには、設置後すぐにみんなで協力して清掃・消毒当番を決め、定期的にトイレを清潔にすることが必要です。当初3日間、1時間に1回の頻度で、トイレを清掃できれば、トイレの使用が継続でき、感染症発生防止に大きな効果があるでしょう。トイレ使用後には、手指消毒が大切です。

 以上の2点を避難所の開設時に徹底することで、衛生環境の確保につながり、感染症予防に大きな効果をもたらすと考えられます。
 これ以降の避難所の衛生対策につきましては、隔月誌「生活と環境」の連載「災害時の居住環境」から抜粋した「避難所の衛生対策のチェックポイント」を参考にしてください。

2020年2月27日
中臣昌広(一般財団法人日本環境衛生センター環境生物・住環境部、元 文京区文京保健所勤務)

 日本環境衛生センターが発行している隔月誌「生活と環境」の連載記事「災害時の居住環境」から、避難所の衛生対策のチェックポイントに関する記事を抜粋しました。

 第27回 避難所の衛生対策のチェックポイント(1)【PDF 1.38MB】
 第28回 避難所の衛生対策のチェックポイント(2)【PDF 1.66MB】

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