人の生命や身体に被害を及ぼす虫たち
-ヒアリ、セアカゴケグモ、ダニ類など-

ヒアリ

 ヒアリは中南米原産の外来アリで、物流のグローバル化に伴い、コンテナ等により日本国内に持ち込まれ、2017年6月から2019年12月末までの確認事例は、15都道府県で48事例になっています。
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 環境省では、ヒアリ対策として次のとおり取り組んでいます。
 ①水際対策の徹底
  ヒアリ確認地点での殺虫処理と確認調査等
 ②定着防止対策の強化
  野生巣早期発見の手法や発見時の対応を検討
 ③供給元対策
  中国との連携・協議を継続/コンテナ清浄化等の実用可能性を検討
 ④普及啓発

セアカゴケグモ

 セアカゴケグモは、1995年11月に発見されました。外国から輸入された建築資材などに紛れ込んで侵入したとみられています。
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 外来生物法では、外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれのあるものの中から特定外来生物を指定しています。ヒアリやセアカゴケグモは、特定外来生物に該当します。

 特定外来生物又は外来生物に該当する虫としては、ほかにもツマアカスズメバチやクビアカツヤカミキリ、ヤンバルトサカヤスデなどが問題になっています。ツマアカスズメバチ以外は人に対して直接的な被害を及ぼすことはありませんが、樹木害虫や不快害虫として問題になっています。こういった外来生物の侵入は、今後も続くと考えられますし、国内でも大規模災害時等の廃棄物や建築資材の運搬で生息域が広がる可能性も考えられます。これらに対しては、早期の対応が重要となりますので、常時監視できるような態勢づくりが必要になると思われます。

ツツガムシ類

 ダニの仲間であるツツガムシ類はつつが虫病を媒介することで知られていますが、かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏に河川敷で感染する風土病(古典型つつが虫病)でした。第二次世界大戦後、北海道や沖縄など一部の地域を除き、全国から新型のつつが虫病の発生が報告されています。
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マダニ類

 マダニ類は、シカ、イノシシ、タヌキ、アライグマ、ウサギなどの野生動物が出没する環境に多く生息しており、民家の裏山、裏庭、畑、あぜ道などにも生息しています。
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 近年、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)がマダニ類により媒介される可能性が指摘されており、農作業やレジャーで野山に立ち入った人や犬がマダニに寄生されて感染するリスクが増大しています。

各詳細説明

ヒアリ

 ヒアリはアカカミアリと共に非常に攻撃性が強いアリとして知られています。世界各地に侵入して問題になっています。刺されると激しい皮膚症状を呈し、アナフィラキシーショックにより死に至ることもあります。日本各地の港湾地域で発見され、数カ所からは1,000個体以上が発見され、女王アリや雄アリ、卵、蛹(さなぎ)なども見つかり、分散や定着が懸念されています。発見状況など、詳しくは環境省のホームページをご参照ください。
環境省 特定外来生物ヒアリに関する情報
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/hiari.html
 ヒアリ以外にもアルゼンチンアリやハヤトゲフシアリなどの外来アリの侵入も問題になっています。これらのアリは人に対する肉体的な加害はしませんが、生態系への影響が大きいことや、不快害虫として問題になることもあり、ヒアリと同じように、特定外来生物に指定されています。多くのアリに対してはベイト(毒餌)剤が効果的ですが、アリは生態系の中で重要な役割を担っていますので、無害な在来アリまで駆除するようなことは避けなければなりません。
 日本環境衛生センターと日本ペストコントロール協会は、2019年12月に外来性アリ同定研修会を開催しました。東京大学農学部の寺山守先生の講義「日本のアリと外来アリの侵入・定着」の後、日本に生息しているアリの種類や生態、侵略的な外来種であるヒアリの特徴・被害に関して学び、午後から、実際のアリを実体顕微鏡で見ながらの同定実習や標本作製を行い、外来アリと他のアリを区別する方法について学びました。皆さん大変関心が高く、とても熱心に取り組んでおられました。
 この実習で観察し、特徴について学び、標本を作製したアリは以下のとおりです。
外来アリ:ヒアリ、アカカミアリ、ハヤトゲフシアリ、アルゼンチンアリ
在来アリ:クロヤマアリ、クロオオアリ、トビイロシワアリ、オオヅアリ、トビイロシワアリ、トビイロケアリ、ヒメアリ、キイロシリアゲアリ、アミメアリ、ヒメアリ、ルリアリ

セアカゴケグモ

 セアカゴケグモは、1995年に大阪府(高石市など)と三重県(四日市市)で国内で最初に発見されました。同時期に横浜市ではハイイロゴケグモも発見されています。その後、セアカゴケグモは全国各地からの報告が相次ぎ、2019年の時点で発見されていない県は、青森県、秋田県、長野県の3県のみになっています。また、各地での定着も確認されています。
 強い毒(α-ラトロトキシンと呼ばれる神経毒)を持ち、咬まれると死に至ることもありますが、日本では、まだ、死亡例はありません。しかし、咬傷例は毎年のように報告されていて、大阪府の集計では1997年から2019年の間に、96件(大阪府内)の報告がありました。おとなしいクモで、掴んだりしなければ咬まれることはないと言われていますが、卵を守っている時の雌グモはかなり攻撃的ですので、うっかり巣に触れたりするようなことがないよう注意が必要です。巣は不規則に立体的に造られ、排水溝の中やグレーチングの隙間、フェンスの下部、ブロックの内部、排水パイプの中、エアコンの室外機内外などに見られます。



 ゴケグモ類と同じヒメグモ科に属し、形がよく似ているオオヒメグモは人家の軒下などに巣を造ります。ゴケグモが問題になったころ、このクモの同定依頼が日本環境衛生センターにかなりありましたが、このクモは無害です。なお、オオヒメグモが高い場所に巣を造るのに対し、ゴケグモ類の巣は地上からの高さ50㎝以内の場所に造られことが多いようです。
 ゴケグモ類に対しては、市販のハエ・蚊、ゴキブリ用のエアゾール剤などの殺虫剤がよく効きます。ただし、殺虫剤は卵(卵嚢)には効果が低いので、孵化したころを見計らって再処理する必要があります。見つけたら踏みつぶしたり、殺虫剤を処理して殺すようにしますが、無害なクモを必要以上に殺すことがないよう気をつけましょう。ほとんどのクモは人に対する害はありません。



 日本環境衛生センターでは、セアカゴケグモ発見の直後に、当時、厚生省の依頼で、クモや毒性の専門家など委員12名、協力者17名からなる「セアカゴケグモ等対策専門家会議」を立上げました。この専門家会議では、検討会を設け、現地での生息状況調査や毒性調査、文献調査などを実施し、ゴケグモ以外のクモ、サソリ、ハチ、毒ヘビなど、その当時問題となっていた外来生物の知見も含めて報告書を取りまとめました。

マダニ類

 マダニ類が媒介するとされるSFTS(2013年に第四類感染症に指定)症例の日本国内の報告数は、西日本を中心に2013年以降498例(2020年1月29日現在)に達していて、致死率は20%前後となっています。今のところ、石川、三重県以西での発生となっています。ウイルス遺伝子は、タカサゴキララマダニやチマダニ属のフタトゲチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニなどから検出されていて、抗体陽性の野生動物は全国各地で確認されています。
 マダニ類は世界的に見ても多くの感染症を媒介しています。日本でもSFTS以外に、日本紅斑熱やライム病、ダニ媒介脳炎などがマダニの媒介によって発生しています。中でも日本紅斑熱は西日本を中心に感染者数が増加している感染症で、このところ毎年300症例以上が報告されています。また、ライム病も北日本を中心に年間10~20症例、ダニ媒介脳炎は北海道から報告されています。ダニ媒介脳炎(日本のものは極東亜型と言われています)は致死率が20%以上、生存者でもその30~40%に神経学的な後遺症が残ってしまう感染症で、2019年6月時点で北海道から5症例が報告されていて、ヤマトマダニが媒介するとされています。
 マダニ類に対しては、ディートやイカリジンを有効成分とする人体用の忌避剤が有効です。マダニが生息していそうな野外で活動する際には、皮膚や衣類、靴などに処理しておくとよいでしょう。効果の持続時間は有効成分の含有量や処理量、発汗量などによって異なりますが、1~2時間ごとに使用するとよいでしょう。

ツツガムシ類

 つつが虫病は、ツツガムシ類の幼虫が媒介するリケッチアによる感染症で第四類感染症に指定されています。1980~90年代には年間1,000症例近く報告され、現在でも年間300~400症例以上が報告されています。ツツガムシ類は、本来、幼虫期に野ネズミに寄生して吸血(正確には吸リンパ液)しますが、人に寄生した場合、つつが虫病を媒介することがあります。
 以前は秋田、山形、新潟県の雄物川、最上川、阿賀野川、信濃川などの河川敷で夏に発生する致死率の高い風土病として恐れられていましたが(古典型つつが虫病)、1950年代以降は秋から春にかけて北海道を除く全国で発生する新型つつが虫病が問題となっています。古典型つつが虫病はアカツツガムシ、新型つつが虫病はフトゲツツガムシとタテツツガムシが媒介します。なお、古典型つつが虫病は一時期消滅したと考えられていましたが、2008年に秋田県で1例の感染が報告され、その後の調査でアカツツガムシが多数見つかり、野ネズミへの感染も明らかとなっています。
 新型つつが虫病は、古典型に比べて症状は軽いと言われていますが、投薬などの対応が遅れると重篤になることが報告されていますので、注意が必要です。秋のキノコ採り、春の山菜採りなどでの山に出かけるときは、効能効果に「ツツガムシの忌避」を謳っている忌避剤(有効成分:ディート)を使用するようにしましょう。


ツツガムシ類(幼虫:体長はいずれも0.2㎜程度)
左:タテツツガムシ 中:フトゲツツガムシ 右:アカツツガムシ
つつが虫病を媒介するのは幼虫です。ツツガムシはダニの仲間ですので、成虫の脚は4対(8本)ですが、幼虫の脚は3対(6本)です。